18650リチウムイオン3直列の組電池を自作する

充電式クリーナー用の使い古しバッテリーパックから取り出した18650リチウムイオン電池を使い、電池を3直列にして充電する実験を行ったが、セル間の電圧バラツキが気になる結果だった。

その後行ったセルバランス回路付き保護回路基板を使った実験の結果を踏まえ、以前の記事と一部重複にはなるが、リチウムイオン組電池を作る時のポイントを再度まとめて記事にしたいと思う。

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回路構成

下はバッテリーと周辺回路の図で、組電池は点線で囲んだ部分。バッテリーセルは3直列となっており、保護回路が各セルの電圧を監視して過放電や過充電を検出したらバッテリーを外部回路から遮断する。リチウムイオン電池の過充電や過放電は電池にダメージを与えるため保護回路は必須。

図

既製品の保護回路基板を利用

保護回路基板は電池の種類と直列数に合った物を使う必要がある。以前の記事で保護回路基板を自作してみたが、自作のメリットも特に無さそうなので既製品を使うのが良いと思う。

保護回路基板はBMS(Battery Management System)とも呼ばれており、AliExpressで”BMS 3S”でキーワード検索すれば3直列用の保護回路基板が色々引っかかる。前回記事で取り上げたセルバランス回路付き保護回路基板は少々期待外れだったため、今回は保護機能だけのシンプルな保護回路基板を使うことにした。

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写真

制御チップの表面には”8254A”の文字が見える。恐らく、ABLIC製S-8254Aと思われる。

S-8254A の データシート、仕様、型番リスト、サポート - エイブリック株式会社
エイブリックのS-8254Aシリーズは、高精度電圧検出回路と遅延回路を内蔵した3 セル直列あるいは4 セル直列用リチウムイオン二次電池保護用ICです。 SEL端子による切り換えで、3 セル直列用あるいは4 セル直列用のどちらにも対応できます...

強制セルバランスの実行

前回記事でセルバランス回路付き保護回路を試したものの、電圧バランスを取る動作は不十分だった。そこで、今回も同じ電池を使い、電池の並列接続による強制セルバランスを実行してから組電池を充電するようにした。

スポット溶接は強く引っ張れば外れるため、ニッケルタブをいったん外したうえで、3本の電池をみの虫クリップで並列接続する。

写真

スポット溶接機で組電池の配線

強制セルバランスが終わったら、AliExpressで購入のスポット溶接機前回記事同様に組電池の再配線を行った。

写真

ニッケルタブが届く所は保護回路の端子に直接溶接し、他はハンダ付けで配線。特に組電池のマイナス側(B-)端子は充放電電流が流れるので太めの銅線で配線した。もう一本のB2端子は電圧の検出だけなので銅線を太くする必要は無いと後で気付いたが、わざわざ細い線に替えるのも面倒だったのでそのままに。

写真

組電池の電圧チェック

配線の間違いが無いか確認しつつ、保護回路基板のP-端子とP+端子から電池3直列相当の電圧が出ているか確認しておく。

保護回路が発動してしまった時

配線の最中に保護回路が何かのキッカケで低電圧検出をしてしまい、電池残量があるのにP-端子とP+端子からの出力電圧が0Vになってしまう事がある。そういう時は組電池の充電を行えば治るのだが、以下を実行することでもリセット出来る。

  • 直列電池の高電圧側(B+端子)とP+端子を一瞬ショート

今回使った保護回路基板がPch MOSFETによるハイサイド制御のため上記操作で治せるが、保護回路基板がNch MOSFETによるローサイド制御の場合はB-端子とP-端子をショートするようにする。

充電してみる

定電圧源を電圧12.3V(少し余裕を持って一本あたり4.1V✖3=12.3V)・最大電流700mAに設定し、保護回路基板のP+,P-端子に接続して充電を行う。前回記事同様、間にESP32電流ロガーを挟んで組電池にかかる電圧と電流のログを取得。

写真

充電曲線グラフ

ロガーで測定した充電曲線。突然電流が急降下したり、接触不良?と思われる不自然な箇所が幾つかあるが、概ね問題無さそう。

充電曲線

電池単体の電圧推移

単体電池の電圧をマルチメータで測定した結果は以下の通り。充電直後は揃っていた電圧も、徐々に電圧差が開いて行ってしまった。上記の強制セルバランス実行はせいぜい2時間程度だったため、時間的に不十分だった可能性が高い。

電池A電池B電池C
充電前3.49V3.49V3.49V
充電開始直後3.54V3.55V3.55V
15分3.62V3.65V3.67V
30分3.69V3.70V3.71V
60分3.80V3.83V3.85V
90分3.94V3.98V4.00V
120分4.01V4.05V4.07V

強制セルバランスと充電のやり直し

少し電池を放電させてから真ん中の電池の溶接を取り外し、再度強制セルバランスを取ることにした。

写真

並列配線の所にマルチメータを挟んで電流を測ってみたところ20mA程度しか流れていない…そもそも小さい電圧差のところに配線抵抗などがあるためチョロチョロしか電流が流れないのだろう。というわけで、写真の状態で24時間程度放置。

充電曲線グラフ(2回目)

再度スポット溶接して組電池に戻し、充電を行った時の充電曲線。放電が甘かったせいか、定電流充電の時間が若干短めだった。

充電曲線

電池単体の電圧推移(2回目)

十分時間を掛けて強制バランスを行ったおかげで単体電池の電圧は綺麗に揃うようになった。

電池A電池B電池C
充電前3.59V3.59V3.59V
充電開始直後3.65V3.65V3.65V
20分3.73V3.73V3.73V
30分3.77V3.77V3.77V
60分3.94V3.94V3.94V
90分4.02V4.03V4.03V
120分4.06V4.07V4.07V

ここから放電。みの虫クリップで5VのDCDCコンバータに繋ぎスマホの充電をする。

写真

放電させた時の単セル電池電圧。充電中と同様、放電しても電圧差が大きく開くことは無かった。

電池A電池B電池C
放電前4.04V4.05V4.05V
放電中3.94V3.94V3.94V
3.71V3.72V3.72V
3.53V3.53V3.53V
放電後3.05V3.06V3.07V

まとめ

リチウムイオン3直列電池の組電池を自作し、充放電する実験を行った。並列接続して強制セルバランスを行うことで組電池にした時にセル間電圧のバラツキを無くす事が出来ることが分かった。バッテリーの容量が揃っている事は大前提だが、保護回路に付いてる中途半端なセルバランス回路などに頼ろうとせず、組電池にする前に並列接続してセル間電圧を揃える強制セルバランスを一回実行すれば十分な気がする。

また今回使った中古リチウムイオン電池は充電式クリーナーで酷使して寿命が尽きた後の物だったが、意外にも容量バラツキが少ない様子だった。中古リチウムイオン電池の再利用は単セルで使うのが基本だと思っていたが、直列接続用の保護回路も市販されていることだし、組電池として活用するのもアリかもしれないと考え始めている。

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