昇圧型DC-DCコンバータの原理回路をLTspiceでシミュレーションする

今回は、マイコンによるPWM制御を見据えた、昇圧型DC-DCコンバータの原理回路を取り上げる。マイコンを使った昇圧コンバータの実回路動作については下記の別記事にてまとめた。

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昇圧型DC-DCコンバータの原理回路

昇圧型DC-DCコンバータの原理回路は以下のような物。降圧型DC-DCコンバータの原理回路はこの記事で取り扱ったが、昇圧型DC-DCコンバータでもインダクタに電流が流れ続ける「電流連続モード」と電流が流れない期間が生じる「電流不連続モード」の2種類が存在する。「電流連続モード」の場合は出力電圧はデューティ比で決まり、D = 1 - \frac{Vcc}{Vo}の関係がある。下記の回路で電源5Vから12Vを作りたい場合のデューティ比はD = 1-\frac{5V}{12V}から0.58333…が導かれる。

Circuit

電流連続モードの時

負荷が比較的重くインダクタに電流がコンスタントに流れる「電流連続モード」の場合は出力電圧は概ねパルスのデューティ比で決まる。
負荷抵抗RLを100Ωとすると上記回路は電流連続モードで動作し概ね12Vが得られている。

Circuit

電流不連続モードの時

負荷が軽くインダクタに電流が流れない期間が生じる「電流不連続モード」の場合は出力電圧が上昇してしまう。上記回路で負荷抵抗RLを10kΩとすると、出力電圧は20Vを超えてしまう。マイコンでPWMを行う場合は、出力電圧を監視してPWMのデューティ比を制御すれば良いだろう。

Circuit

電流不連続モード境界点の負荷抵抗

電流連続モードと電流不連続モードの境界点となる負荷抵抗R_Rはいくつだろうか?このへんは結構ややこしいので詳しい解説は下記記事を参照のこと。

昇圧スイッチング電源の基礎 | CQ出版社 オンライン・サポート・サイト CQ connect

上記記事の内容を上の回路にあてはめると、電流連続モードと電流不連続モードの境界点となる出力電流I_Rは以下の式で求められる。

I_R = \frac{Vcc \cdot D (1-D)T}{2L}

この時の負荷抵抗 R_R = \frac{Vo}{I_R}なので、上の式を代入して整理すると、

R_R = \frac{2 L Vo}{Vcc \cdot D (1-D)T} = \frac{2 L}{D (1-D)^2 T}

上記の回路定数を当てはめるとR_R = 185.6Ωと算出出来、上の回路でRL=185.6を指定してシミュレーションを行うと、以下のようにスイッチがOnする直前にコイルの電流が0になるグラフが得られる。

Circuit

スイッチをMOSFETに置き換えて動作を確認する

マイコンの3.3V IOでMOSFETのゲートを直接制御しようとするとVgsのしきい電圧が低めのMOSFETを使う必要があり、MOSFETがオンした時にソース-ドレイン間の抵抗が期待通り下がってくれるのか心配になる時がある。そこで、上記回路のスイッチをMOSFETで置き換えパルス出力を3.3Vにした以下の回路で確認してみる。

Circuit

手持ちのパワーMOSFETでマイコン制御向きの物はゲートしきい電圧が約1VのAO3400という物で、上記LTspice回路では下記メーカーサイトに置かれているSPICEモデルをファイル名AO3400.spice.txtにダウンロードして使っている。

AO3400 | AOSMD
30VN-ChannelMOSFETObsolete,pleasereviewoursuggestedreplacement AOSS32334C

LTspiceでMOSFETのSPICEモデルを適用する方法はこの記事を参照。
負荷抵抗RLに12Ωを指定しており電流は約1A流れるため、理論上MOSFETのドレイン電流は平均で1A \times \frac{12V}{5V} = 2.4A 程度流れる筈。シミュレーション結果を確認するとほぼ期待通りの挙動になっており、問題無いとわかる。

Circuit

MOSFETのゲート電流について

MOSFETはバイポーラトランジスタと違って基本的にはOnの期間であってもゲートに電流は流れない(流れてもnAオーダーの漏れ電流)のだが、On/Offの遷移期間はゲート容量の充放電に伴う電流が瞬間的に流れる。特にパワーMOSFETは一般的にゲート容量が大きく、マイコンのGPIOではパワー不足でゲートドライブ回路の追加が必要な場合もあるだろう。

上記MOSFETを使った回路でゲート電流を調べてみる。

Circuit

ゲート電流だけを少し拡大してみると、パルス電流はピーク値200〜300mAで幅は0.1usにも満たないごく短い物。大抵のマイコンのGPIOは連続で数十mA流せるので恐らくこの程度であれば問題にならないだろう。

Circuit

試しにゲートに直列に入れているR1を0Ωにしてみるとパルス幅がもっと狭くなり、On時のピーク電流が4Aにもなった。実回路でここまでの電流が流れる可能性は低いだろうが、MOSFETとGPIOを直結するのは避けたほうが無難かも。

Circuit

まとめ

LTspiceで昇圧型DC-DCコンバータの原理回路を組み、シミュレーションを行った。まずは教科書通りの原理回路で負荷抵抗を変えて挙動を観察。次にマイコンのGPIOでMOSFETを直接駆動するイメージの回路について動作を確認し、ゲート電流に着目した観察も行った。この昇圧回路を実際に使えるようにするためには電流不連続モード時の出力電圧上昇への対策が必要だが、そのへんはマイコンを使った実回路でPWM制御を行った下記記事で取り扱っている。

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