タイマIC555を使ったDC-DCコンバータ原理回路をLTspiceでシミュレーションしてみる

下記記事でまとめた通り、タイマIC555を使うと抵抗とコンデンサの定数を合わせることで所望の周波数/デューティ比のパルス発振回路が簡単に作れる。

今回はこの555による発振回路を用いて、5Vから3.3Vを得る降圧型DC-DCコンバータの原理回路をLTspice上でシミュレーションする実験を行ったので記事に残しておく。

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降圧形DC-DCコンバータの基本回路

まずは原理確認のため電圧源からパルスを発生させ、MOSFETの代わりにLTspice組み込みのスイッチを用いて降圧回路をドライブしてみる。

Circuit

5Vの電源からVoに3.3Vを出力させるためには、理論上はデューティ比\frac{3.3V}{5V}=0.65のパルスで降圧回路を駆動すれば良い筈。上記回路ではデューティ比Dを.paramディレクティブで指定しており、Dの値を理論値より少し大きい0.71に設定して下のグラフの通り概ね所望の電圧Vo=3.3V(緑線)と負荷電流3.3A(赤線)が得られている。

Circuit

パルス生成を555の回路で置き換え

555を用いた回路は以下。右側の降圧コンバータは元の回路と同じで、パルス生成を555の回路で置き換えた形になっている。R1とR2を調整することによってデューティ比を約70%とし、負荷抵抗RL=1Ωとすることで元の回路とほぼ同様の出力電圧と負荷電流が得られている。555のSPICEモデルは前回記事同様LTwikiの物を使った。

Circuit
Circuit

負荷を少し軽くしても出力電圧は変わらず(RL=10)

.paramディレクティブで負荷抵抗RLを10Ωに変更し電流を上記回路の1/10程度にしても、出力電圧Voは殆ど変わらない。

Circuit

負荷をもっと軽くすると電圧が上昇(RL=100)

負荷抵抗をもっと軽くしてRL=100Ωに変更すると、Voの電圧が4V以上に上昇してしまう(下のグラフの緑の線)。コイルL1の電流(グラフで水色の線)を比べると、上の2つのグラフ(RL=1Ω,10Ω)では電流が連続して流れているのに対して、下のグラフでは電流が流れない期間が出来ていることが分かる。スイッチング電源の教科書に「電流不連続モード」と書かれている状態で、この場合はスイッチングパルスのデューティ比をもっと下げないと3.3Vは得られない。

Circuit

フィードバック制御を追加

出力電流が小さくコイルL1の電流が不連続になる場合、一般的なスイッチング電源では出力電流に応じてパルス幅を変えるPWM制御をかけている。555による発振回路ではCTRL端子の電圧に応じてパルス幅を変えることが出来るため、電圧が3.3Vを超えたらパルス幅を狭め、逆に3.3V未満ならパルス幅を広げる制御をかければ、低負荷時の電圧上昇を防げる筈だ。(但し、前回記事で確認した通り、555の発振回路でCTRL端子による電圧制御を行うとパルス幅だけでなく発振周波数も変わってしまうため、普通のPWMとは異なる制御にはなってしまうが)

というわけで、フィードバック制御用にTL431を追加してみた回路は以下。

Circuit

TL431の中身は2.5Vの基準電圧とオペアンプ(Wikipedia)なのでTL431一本でフィードバック制御出来ると期待し、実際LTSpice上ではそれらしい動作をしてくれた。TL431のSPICEモデルは555と同様にLTwikiに置いてあった物を使ったのだが、残念ながらモデルの近似がイマイチなようで、実回路ではうまく動作しなかった。ただこのモデルを使う限りはLTspice上で一応動作するし、せっかくなので回路動作を詳しく調べておく。

555のCTRL端子電圧と出力電圧の関係を観察

RL=100Ωの場合(パルス制御を行わない回路で出力が4Vを超えてしまった場合)について、フィードバック制御の全体像を把握しよう。グラフ先頭0msは出力電圧V(vo)が何故か5Vからスタートする(LTspiceのシミュレーション初期条件のせい?)のだが、それも徐々に下がって行き、4〜5msの所で急にCTRL端子電圧V(ctrl)が変化すると共にV(vo)が3.3Vで安定している。制御が無かった場合は15ms経過後も出力が4.1Vだったのとは対照的に、TL431によるフィードバック制御が一応効いることがわかる。

Circuit

TL431による555へのパルス制御の詳細

上のグラフでCTRL端子の電圧が急激に変化し始める4.4ms付近を拡大し、パルス電圧V(pulse)とL1の電流I(L1)をプロットしたグラフは以下。

Circuit

グラフから読み取れるのは、回路の以下のような挙動だ。

  • 4.40ms以前:出力電圧V(vo)>3.3であり、かつCTRL端子の電圧が0.8Vの時はパルス幅が狭くRL側に流れる電流が小さいので、RLで消費される電流によってV(vo)が徐々に低下
  • 4.42ms付近: 出力電圧V(vo)<3.3となり、パルス幅が狭いままだとRL側に流れる電流が不足するので、徐々にパルス幅を広げてL1に流す電流を増やす
  • 4.46ms以降: 「パルス駆動でL1に流れる電流の平均値=RLで消費される電流」となって電流が平衡するため、出力電圧V(vo)が3.3Vにキープされる

0ms〜4.40msでは555のパルス出力を止めて出力電圧V(vo)を一気に下げたいところ、TL431のカソード端子の電圧を0.8Vより下げられないためパルス幅を小さくするだけにとどまり、出力電圧を下げる制御がかなり遅くなっている。対照的にパルス幅を広げて電圧を上げる動作は速く、この回路では電圧下降時の制御は問題ないが電圧上昇時の制御がうまく行っていない事も読み取れる。

まとめ

今回はLTspiceを使ってDC-DCコンバータの原理実験をやってみた。

スイッチング電源の教科書に載っている通り負荷電流が大きい時は「コイルの駆動パルスのデューティ比≒入出力の電圧比」の関係で出力電圧が決まるが、低負荷時はコイルの電流が不連続となる所謂「電流不連続モード」となって出力電圧が上昇してしまう事が確認出来た。出力電圧上昇時にはPWM制御をかけるのが一般的だが、今回はタイマIC 555のCTRL端子とTL431を使った簡易的なパルス制御により電圧のコントロールが出来る事もなんとなくだが確認出来た。

次のステップとしてスイッチングにMOSFETを使った回路をLTspiceでシミュレーションし実回路の動作に挑戦したのだが、それは以下の別記事にまとめた。

降圧型DC-DCコンバータの原理動作をLTspiceと実回路で比較する
前回記事で、タイマIC 555を使った降圧型DC-DCコンバータの原理回路をLTspice上で動作させる実験を行った。 前回はLTspiceの組み込みスイッチを使った簡易シミュレーションだったが、今回は実動作可能なMOSFETによるスイッチ...

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