前回記事で、タイマIC 555を使った降圧型DC-DCコンバータの原理回路をLTspice上で動作させる実験を行った。
前回はLTspiceの組み込みスイッチを使った簡易シミュレーションだったが、今回は実動作可能なMOSFETによるスイッチング回路を組み、LTspiceのシミュレーションと実回路の動作とを比較する。
また前回記事ではTL431によるパルス幅のフィードバック制御も試みたが、残念ながら実回路ではうまく動作しなかったので、今回の記事では割愛する。
5V→3.3V降圧DC-DCコンバータの原理回路
前回記事で作った5V→3.3V降圧DC-DCコンバータの原理回路は以下。スイッチをMOSFETの回路に置き換えるためには、PチャネルのMOSFETを使った方が簡単そうだが…
NチャネルMOSFETを使った回路
上記回路図のスイッチをPチャネルMOSFETで置き換えて555の出力パルスでスイッチングしようとすると、MOSFET出力パルスのデューティ比が反転してしまう。対策の候補として思いついたのは以下の3つ。
- R1とR2の定数を変更して555に発生させるパルスのデューティ比を反転させる
- PULSE出力とMOSFETのゲートとの間にインバータ回路を挟む
- ハイサイドではなくローサイドのパルス制御に変更しNチャネルMOSFETを使う
今回は3.のNチャネルMOSFETを使った以下の回路へ変更することにした。
回路の補足事項を以下にまとめておく。
出力端子はVcc側が共通に
ローサイドのパルス制御に変更したのでGND側ではなくVCC側が出力と共通になっており、3.3Vを取り出すめにはVO-端子とVO+端子を使うようにする。
コイルL1の電流測定用抵抗R4を追加
0.1ΩのR4をL1に直列に入れているが、これは実回路でL1の電流に相当する値を電圧値で測定するための物。
MOSFETのゲート駆動回路について
パワーMOSFETはゲート容量が大きく、その容量を高速に充放電させないとゲート電位の立ち上がり/立ち下がりが緩やかになり、ゲート電位が中途半端な期間が出来るので注意する。ゲート電位が中途半端な期間はオン抵抗が充分に下がらないため、その抵抗が原因で電力をロスしてしまうからだ。
555の出力端子からは数十mA程度取り出せるのでMOSFETのゲートを駆動するのに十分なドライブ能力があるが、555の出力端子とゲートとの直列抵抗R3に大きな値を使ってしまうとゲート電位の立ち上がり/立ち下がりが緩やかになってしまうため、R3は10Ωとした。R3は小さければ良いという物ではなく、直結して0Ωにすると発振しやすくなるので避けた方が良い。
ゲート駆動回路については東芝による以下のドキュメントが参考になった。
部品の選択について
MOSFETとダイオードの品種は既に上記回路図に書いてはあるが、以下に部品の選択ポイントをまとめておく。
MOSFETとダイオード
手持ちのパワーMOSFETはIRFZ44Nという物で、LTspice標準で簡易的なSPICEモデルが入っており、今回はそれを使った。メーカーがSPICEモデルの配布も行っているので、詳細なシミュレーションを行うためにはダウンロードして使うのも良いだろう。(但し、ユーザ登録が必要。MOSFETのSPICEモデル利用方法はこの記事を参照。)
IRFZ44Nはオン抵抗が小さく数十アンペアものドレイン電流が流せるMOSFETだが、ゲートしきい電圧が標準で3Vと少し高め。5Vのゲート駆動だと余裕が無い感じだが、今回は実験だし良しとする。
ダイオードはショットキーバリアダイオードのIN5819を使った。こちらもLTspice標準のSPICEモデルを利用した。
インダクタとキャパシタ
インダクタL1は出力電流に見合う物を選ぶ必要がある。今回の実験では数百mA流すのでパワーインダクタを使った。間違えて高周波用チョークコイルなんかを使うと磁気飽和を起こして回路が正しく動作しなかったり、過熱して危険だったりするので注意。
キャパシタC2にはESR(直列の寄生抵抗成分)の小さな物を選ばないと電力のロスに繋がるので、低インピーダンス品を選んだ。手持ちの関係で定数を100uFから330uFに変更している(影響は出力のリップルが変わる程度でしょう、多分)。
インダクタやキャパシタの寄生成分もLTspice上でシミュレーションしたいところだが、手持ち部品のパラメータが不明なので今回は省略。
実回路とLTspiceシミュレーションの比較
LTspiceと全く同じ実回路を組んで動作を実測し、LTspiceのシミュレーションと比較する。測定は負荷抵抗RLが50Ωの場合と5Ωの2パターン。大きな電流を流すので、50Ωの時は1/4Wの100Ω抵抗2本を並列に、5Ωの時は5Wのセメント抵抗を使った。
当初はマルチメータで入出力の電流を測定したのだが、マルチメータ自身が電圧降下を起こして測定に影響してしまうため、下の写真のように電源電圧と出力電圧を測定することに。オシロはADALM2000+Scopyを使った。
オシロで実測する波形は、以下の2種類とした。
- ゲート電圧
- R4の両端電圧→mV単位での読み値を10倍して電流値mAと読み替える
RL=50Ωの時
- LTspiceシミュレーション結果: 一瞬「電流不連続モード」の期間が生じるため、出力電圧が若干上がって3.7V付近に。
- 実測:マルチメータの読み値は電源5.10V, 出力3.76Vで入出力電圧の関係は概ねシミュレーションと一致した。オシロによる測定波形は以下の画面キャプチャの通り。ゲート電位の波形(オレンジ色)は上下で5マス振れており、1マスが1VなのでMOSFETは綺麗にスイッチングされていることがわかる。R4の電圧振幅(紫)は2マスを行ったり来たりになっており、1マスが10mV→1マス100mAと読み替えると、電流振幅が200mA程度でシミュレーション結果と比較すると若干大きいか?
RL=5Ωの時
- LTspiceシミュレーション結果:出力電圧は理論通り約3.3V。
- 実測:マルチメータの読み値は電源4.99V, 出力3.196Vで出力が若干だが低め。ゲート電位の波形(オレンジ色)はRL=50Ωの場合と比較して振幅が若干低下しているようにも見えるが問題なさそう。一方R4の電圧振幅(紫)はピークが3.5マスと2.5マスとの間を行ったり来たりになっており、1マスが20mV→1マス200mAと読み替えると、電流は概ね500mAと700mAの間を行ったり来たりになっていてシミュレーションと大体一致している。
まとめ
前回記事にてLTspice上で実験したDC-DCコンバータ原理回路の動作を実回路で確認出来た。多少の誤差は見受けられたものの、単純な原理回路の実験という事もあってかシミュレーションと実測で概ね一致した結果が得られた。
よく言われることだが、実回路で電流を測定するのは難しい。今回の実験でも回路上にわざわざ抵抗を挿入してコイルの電流値の測定を行ったりしたが、そんな小細工をしなくてもLTspiceなら電流値が簡単に得られるのは大きなメリットだと改めて実感した。特に電源回路などでは大電流を扱うことも多く、事前にLTspiceのシミュレーションで電流値を確認してから部品の選定を行った方が焼損などの事故も防げるのではないかと思う。
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