ブートストラップ回路によるMOSFETハイサイド制御を考える

Vgs(ゲート-ソース間電圧)の定格を超えるような高電圧のスイッチングを行うために低電圧側パルスを高電圧側のパルスに変換する回路2種類を下記記事にて試した。

これ以外の選択肢として、制御対象の電源より上の電位を発生させる昇圧回路を用い、NチャネルMOSFETでハイサイド制御が出来るブートストラップ回路という物が存在する。このブートストラップ回路で降圧型DCDCコンバータを作ると、ローサイド側のNチャネルMOSFETがフライバックダイオードの代わりになるため、パワー段をNチャネルMOSFETだけで構成出来るなどメリットも大きい。今回はこのブートストラップ回路についてLTspiceでシミュレーションした結果をまとめる。

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ブートストラップ回路の原理回路

ブートストラップ回路の動作はかなり複雑なので専用ICを使って作るのが現実的だが、まずは動作原理を理解すること重要!というわけでLTspice上で原理回路を組んでみた。下は電源V1をハイサイドスイッチM1とローサイドスイッチM2で制御する回路となっておりハーフブリッジ回路とも呼ばれる。MOSFETの素子はLTspice標準定義の物から適当に選んだ(本当はこのまま実回路で動かすとM4のVgsがBSS84の定格を超えて壊れるのだが、ブートストラップ回路の原理を理解する事が目的なので気にしないことにする)。

回路図

ゲート駆動パルスにはデッドタイムが必要

パワーMOSFETのゲート駆動用パルス源はハイサイド用V3(PULSEH)とローサイド用V4(PULSEL)の2つを定義しているが、これらパルスは独立な物ではなく周期は全く同じ。違いはハイサイドとローサイドのスイッチを同時にオンさせないためのデッドタイムを設けられている事で、.paramディレクティブのTDEADで時間幅を設定している。PULSEHとPULSELの波形を重ねてみるとPULSELの方がTDEADで設定している0.5usだけパルス幅が狭くなっている(PULSEHとM2のゲートの間にインバータが挟まっているのでPULSEHは負論理になっている)。

回路図

ブートストラップ回路の動作詳細

M3,M4によるドライバ段がハイサイド側のパワーMOSFET M2のゲート容量の充放電を行っているのだが、このドライバ段の電源はダイオードD1とコンデンサC1で構成される昇圧回路によって賄われている。昇圧回路の動作と、ハイサイド側パワーMOSFETのゲート容量充放電について詳しく見てみよう。

PULSEHとPULSELが両方ハイレベルの時は、M1とM3がオンとなる。この時下の図の赤矢印の経路でコンデンサC1が充電され、緑矢印の経路でM2のゲート電荷が放電されM2はオフとなる。そしてVBの電位がVcc2よりもD1の順方向電圧Vfだけ下の電位となり、M4はゲート電位がソースに対して逆バイアスとなりオフとなる。

charge

一方PULSEHとPULSELが両方ローレベルの時はM1とM3がオフとなるためC1はGNDから切り離され一瞬浮いた状態になるが、M4が即座にオンとなるため下の図の赤矢印の経路でコンデンサC1からM2のゲート容量の充電が行われM2もオンとなる。

charge

電圧波形を確認する

PULSEHとVS,VBの電圧波形をプロットしてみると、上の2つの回路図に注釈で書いた通りの電位になっていることが確認出来る。

  • PULSEHが0V(Low)→VS=Vcc1, VB=Vcc1+Vcc2-Vf
  • PULSEHがVcc2(High)→VS=0V, VB=Vcc2-Vf
回路図

M1とM2のゲート-ソース間電圧波形をプロットしてみる。狙い通り、M1とM2がオンする間にデッドタイムが挿入されている。

回路図

ゲートドライバ専用ICを使った回路

下はブートストラップ回路を内蔵したゲートドライバICであるIR2104を使い、上の原理回路とほぼ同じ動作を実現している。1つのパルス入力からICが自動でハイサイド用とローサイド用のパルスを生成してくれる。またレベルシフタも内蔵されているためパルス源としてマイコンのPWM出力をそのまま使う事が出来、下の回路でもV3のパルス電圧は3.3Vに設定している。

IR2104のSPICEモデルはメーカーページからダウンロード出来るので、この記事の方法でLTspiceに取り込んだ。

回路図

下はシミュレーションを実行して得られるM1とM2のゲート-ソース間電圧波形。上の原理回路の波形と比べると立ち上がりが少し緩やかだがほぼ同じと言って良いだろう。

回路図

制御パルスのデューティ比を変えた時

.paramディレクティブで制御パルスのデューティ比D=0.2へと変更してみた。デューティ比を変えてもデッドタイムは適切に設定されている。

回路図

ブートストラップ回路を用いた降圧コンバータ

上で試した回路にLC回路を追加すると、以下のような降圧型DC-DCコンバータになる。

回路図

Outには理論上Vcc2の電圧25Vにパルスのデューティ比50%掛けた電圧12.5Vが得られる計算。LTspiceのシミュレーションを実行しM1,M2のゲート電位とともに、Outの電圧波形を確認すると実際の出力電圧は12Vを切っている。これはデッドタイムの挿入によってハイサイド側スイッチM2の実効的なデューティ比が50%を切ってしまっているためだろう。

回路図

M1とM2のドレイン電流を下のグラフで確認してみる。デッドタイムを挿入しているのにも関わらず、M1とM2が同時にオンして一瞬大電流が流れてしまっている。上のグラフでゲート電位波形をあらためて確認すると、M2がオンする瞬間にM1のゲート電位が一瞬だけだが上昇しており、この時にM1,M2が同時にオンしてしまうようだ。

回路図

電力損失が起きている所を拡大してプロットしたグラフは以下。M2がオンしVSの電位が上昇する途中、つられるようにG1の電位が一瞬上昇しM1に電流が流れている事が分かる。この時のM1のドレイン電位であるVSは上昇途中で電圧自体は低く電力損失はピークでたかだか10W、電力が消費される期間も10ns程度なので実害はさほど無さそうだが、少々気持ちは悪い。

回路図

まとめ

ブートストラップ回路の原理動作と専用ICによる動作をLTspiceで確認した。ブートストラップ回路にはデッドタイムの挿入などかなり複雑な動作が必要であり、自動でデッドタイムを挿入してくれる専用ICを使って回路を組むのが現実的だ。

但し、専用ICを使った回路でも不意にゲート電位が上昇しハイサイドとローサイドのMOSFETが同時にオンする現象がLTspiceのシミュレーションで確認された。使いこなすためにはもう少し修行が必要なのかもしれない。何か対策が見つかったら記事を更新したいと思う。

上記で用いたLTspice回路を一応置いておく。

BoostrapHisedeSw_LTspice.zip

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