PチャネルMOSFETによる高電圧ハイサイド制御回路を考える

下記記事でマイコンの低電圧パルスをレベルシフトしてパワーMOSFETをハイサイド駆動する回路の動作をLTspiceで確認した。

一方パワーMOSFETのVgs(ゲート-ソース間電圧)最大定格は20V未満の物が多く、20Vを超えるような高電圧のスイッチングを行いたい時に単純なレベルシフタではVgs最大定格を超えてMOSFETを壊してしまう。そこで高電圧のスイッチングにも使えるハイサイド制御回路をLTspice上で試行錯誤し、低電圧側パルスを高電圧側のパルスに変換する回路を考えてみた。

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レベルシフタ+ツェナーダイオードにより高圧側パルスを得る回路

まずはレベルシフタ、ツェナーダイオードを使った25V電圧源のスイッチング回路をLTspiceで組んでみた。ツェナーダイオードを使って高圧側からツェナー電圧だけ下の電圧となるような電源を作り、この電源でM3,M4のドライバ段を動作させてPチャネルパワーMOSFET M1を駆動している。

回路図

回路動作のポイント

0VとVcc1の間をフルスイングするパルスをM3, M4によるドライバ段に入力すると、M3, M4のゲートにもろにVcc1の電圧が印加されMOSFETが破壊されてしまう。そこで上記回路ではM2によるレベルシフタ出力をR1とR2で分圧させ、パルスの振幅を小さくしてからドライバ段に入力させている。

シミュレーションを実行し、パルス源の出力電位(PULSE)、ドライバへの段入力(VP)、M1のゲート電位(G)とをプロットする。回路図中のVZの所の電位はツェナーダイオードD1のツェナー電圧4.7VだけVcc1より下の電位を供給する電圧源となっており、ドライバ段に入力されたパルスはVZとVcc1の間をスイングするパルスに変換されM1のゲートに印加される。

回路図

この回路の欠点

一見良さそうな回路なのだが、R1の消費電力が少し大き目なのが欠点だ。M2がオンした時のドレイン電流は約19mAだが、同じ電流がR1,R2に流れ、この時R1の消費電力は360mWにも上るため通常の1/4Wクラスの抵抗だと発熱が心配なレベル。R1,R2を大きい抵抗値にすればその分だけ消費電力も減るけれど、今度はパルスの波形が鈍ってパワーMOSFET M1での消費電力が増えてしまうため、その選択肢も取りにくい。

回路図

パルス電位をスライドさせて高圧側パルスを得る回路

レベルシフタはMOSFETのスイッチで変換先の電源をOn/Offすることにより電圧レベル変換を行う。これに対して、以下で取り上げる回路はコンデンサを使ってパルスの電位をスライドさせるような動作をする。この回路は元々、手持ちのDCDCコンバータのデータシートに書かれている内部回路を眺めていて偶然見つけ、エッセンスを拾わせて貰ったものだ。

原理回路

まずはパルスの電位をスライドさせる最低限の原理回路をLTspice上に組んで確認する。

回路図

スイッチングダイオードD1、NPNトランジスタQ1、そして4.7VのツェナーダイオードD2で構成され、パルス源V2の電圧に応じて各素子のOn/Offの状態が変化することにより高圧側へと電位がスライドされたパルスを得ることが出来る。

以下、パルスの電位に応じた回路動作の詳細を見てみよう。

  • PULSEがLowの時
回路図

パルス出力がLowレベルの時はツェナーダイオードD2がオンとなり、Outの電位はVcc1よりツェナー電圧Vzだけ下の電位となる。またコンデンサC1は、片側がPULSEと接続され0Vとなっているが、反対側のVBは電位がVcc1-Vz(実際には条件によって多少変動する)になるまでダイオードD1を介して電流が流れ充電される。

  • PULSEがHighの時
回路図

PULSEがHighレベルの時は、PULSEの電位上昇に伴ってOutの電位も上昇しD2がオフする一方、Q1はオンしてC1の電位で決まる定電圧源として動作する。以下、C1とQ1について細かく見てみよう。

【C1】パルス出力がHighレベルになるとC1の片側はPULSEと同じ5Vとなり、反対側VBはLowレベルの時の電位Vcc-Vzから5V上昇してVcc1-Vz+5となる。

【Q1】VBはベースと接続されているためVcc1-Vz+5がベース電位となり、C1からベース電流が供給されてQ1はオンする。この時Q1のエミッタ電位はベース電位からベース-エミッタ間電圧Vbe(約0.6V)だけ下のVcc1-Vz+5-Vbeとなり、Q1はVBの電位が変化しない限り(実際にはベース電流の供給でC1が放電され少しずつ低下する)定電圧源として動作する。

LTspiceで.tran解析を実行し各点の電圧波形をプロットすると、上で説明した通りの電位変化となっていることが確認出来る。

回路図

ゲートドライバ回路を追加

上の原理回路にはパワーMOSFETのゲートを駆動する能力は無いため、以下の回路ようにM2,M3によるドライバ段を追加してパワーMOSFET M1のハイサイド駆動をする回路を組んだ。ツェナーダイオードがドライバ段の電源供給も担うなど原理回路と異なる所もあるが、コンデンサC1がパルスの電位を高圧側にスライドさせQ1のベース電流を供給する動作は原理回路と同じ。

また、この回路には負荷抵抗RLを除くと目立った電流が流れる箇所が無く非常に低消費電力だ。

回路図

シミュレーションを実行し、パルス源の電圧波形とパワーMOSFETのゲート電圧波形をプロットしてみる。波形が鈍ることも無く高圧側に綺麗なパルスが得られている。

回路図

まとめ

マイコン等の低電圧パルスを使い、MOSFETのVgs最大定格を超えるような高電圧のハイサイド制御を行うための駆動回路2種類を設計しLTspice上で動作させ解析を行った。低電圧側パルスを高電圧側のパルスに変換する方法がそれぞれ以下のように異なっている。

  1. MOSFETを使ったレベルシフタの出力を抵抗分圧
  2. バイポーラトランジスタを使って電圧をスライド

高電圧側のパルスが得られた後は、ツェナーダイオードを使って作った電源でドライバ段を動作させてPチャネルMOSFETを駆動させる所は共通している。

…こうやって整理してみると何てこと無い回路なのだが、ここに辿り着くまでアナログ初心者には結構な試行錯誤が必要で、色々勉強になるネタでした。例によってLTspiceの回路を置いておくので、参考にされたい方はどうぞ。

HiVoltageHisedeSw_LTspice.zip

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