デサルフェータとはパルス電流を印加することで劣化した鉛バッテリーを復活させる回路で、別記事で鉛バッテリーの劣化メカニズムと併せてまとめている。
このデサルフェータの回路をLTspice上に組んでシミュレーションしたので記事にまとめた。
デサルフェータのシミュレーション回路
ネットで見つけた回路を参考にLTspice上に作った回路は以下。タイマーICの555で約10kHzのパルスを発生させ、MOSFETとインダクタによるパルス電流生成を行う回路になっている。パルス電流生成は昇圧型DC-DCコンバータによる高電圧生成と同じ原理で、平滑化のキャパシタを省略してパルスのまま高電圧をバッテリに戻している。以前当ブログでも取り上げた昇圧型DC-DCコンバータと似ているが挙動が少し違うので、以降「昇圧チョッパ回路」と呼ぶことにしよう。
パルス電流をバッテリーに戻す際に少し大きめの電流が流れるが、大電流は一瞬しか流れないためMOSFETやダイオードは小信号用の物を選んだ。ゲート容量の大きいパワーMOSFETを使う場合は、ゲート抵抗R3の変更等が必要かもしれない。
回路図の赤枠の部分は鉛バッテリーをシミュレーションするための回路で「バッテリーから電流を取り出す時は内部抵抗が低く、高電圧で充電しようとすると内部抵抗が高くなる」というイメージで適当に作った物。この部分は実回路では鉛バッテリーに置き換える想定。また、R4は鉛バッテリーと回路の間の電流のやりとりを観察するための物で実回路では省略する予定。
LTSpiceでシミュレーション実行
555によるパルス発生
下は555のパルス出力波形(実際はMOSFETのゲート電位波形だが)。
パルス幅がかなり狭いのは、回路図でR2と並列に入っているダイオードD1によってC2の充電速度を速めた結果だ。このあたりについては、555によるパルス発生回路について調べた過去記事が理解の助けになると思う。
パルス幅を更に狭める場合はR1を小さく、逆に広げたい場合はR1を大きくすればOK。ただパルス幅を広げすぎると昇圧チョッパ回路の出力電圧が高くなりすぎて回路やバッテリーにダメージを与える可能性があるので注意。発振周波数を変えたい場合はR2を変更する。
昇圧チョッパ回路の動作
外付けの電源があればMOSFET、L1、D2だけで高圧のパルス生成は出来る(後述)が、C4とL2の存在によって鉛バッテリーから電源を取りつつ高電圧で鉛バッテリーに戻すという動作が可能になっている。
MOSFETのゲート電位とL1,D2の電流を見てみよう。MOSFETがオンの期間(約70us〜75usの間)にL1にエネルギーが蓄積していき(D2はオフ)、MOSFETがオフするとD2がオンになって電流が流れるという昇圧型DC-DCコンバータと同様の動作になっている。
この時、バッテリーと回路の電流のやりとりをR4の電流で観察してみると、MOSFETがオンの期間はバッテリーから回路に向かって電流が流れ、オフした瞬間は逆に回路からバッテリーに向かって電流が流れることが確認出来る。
このようにバッテリーと回路との間で電流の出し入れが出来るカラクリは、C2とL2で構成する簡易的な定電圧回路(平滑化回路と言った方が近いかも)から昇圧回路へ電源供給を行っているからだ。C4の両端電圧を調べてみれば分かる通り、ほぼ一定電圧となっている。
バッテリー電圧の波形
バッテリー代わりにダイオードと抵抗で作った回路は適当に係数を決めたダミーなのでVBATの電圧波形そのものはあまり意味が無いのだが、後述の電源を外付けしたデサルフェータ回路との比較をするためにバッテリーの電流とバッテリー電圧のプロットも載せておく。瞬間的に30V位までバッテリーの端子電圧が上昇している。
電源を外付けにしたデサルフェータ
鉛バッテリーから電源を取るのではなく電源を外付けにすれば、C2とL2を省略して以下のような回路にすることが出来る。
この場合はV2から電源が取られ、デサルフェータ回路から鉛バッテリーV1に向かって電流パルスが流れ込むだけとなる。
まとめ
鉛バッテリーのデサルフェータ回路をLTspiceでシミュレーションして解析を行った。タイマIC555で発生させたパルスで昇圧チョッパ(昇圧型DC-DCコンバータからキャパシタを省略した物)を駆動するだけの回路ではあるが、鉛バッテリーと回路の間で電流の出し入れが出来るよう工夫されている事がわかった。
また、回路構成を少しだけ変更すると電源を外付けにすることも出来、鉛バッテリーが完全放電している場合などはそっちを使うと良いかも知れない。ただ、その場合は過充電の恐れがあるため何らかのコントロールが必要だろう。
このデサルフェータ回路の実回路を組んで鉛バッテリーに接続し、劣化したバッテリーを復活させた件は別記事にまとめてある。
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