TL431とMOSFETで電源切り替え回路を作る

前回記事ではTL431を使ったバッテリープロテクタを作った。

バッテリープロテクタはバッテリーの電圧が低下した時に負荷との回路接続を遮断するが、今回は単にバッテリーを遮断するだけでなく別の電源へ切り替える機能を加えた「電源切り替え回路」を作る。

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電源切り替えの原理回路

LTspice上に組んだ電源切り替えの原理回路は以下の通り。Nch MOSFETを使ったローサイド制御を想定しているが、2電源以上の電源切り替えをMOSFETで行うためには電源間の電流の逆流を考慮する必要があり(後述)、まずはLTspiceのスイッチデバイスを使っている。

BatterySwitcherWithSwDev

回路図の上半分はバッテリープロテクタの回路と似ており電圧検出の仕組みも全く同じ。バッテリープロテクタとの差分はQ2とS2周辺でバッテリー電圧低下時に外部電源V2に切り替えるための回路が追加されている点だ。

バッテリー電圧が11.5V未満になるとスイッチをオンする回路の説明

スイッチS2はバッテリー電圧低下時に外部電源V2と負荷を接続する。そのS2をコントロールする信号を作っているのがNPNトランジスタQ2であり、コレクタに接続された抵抗R8がVaux-(補助電源V2のマイナス側)に接続されていることがポイント。Q2がオフの時はR8の両端に電位差が発生しないが、Q2がオンするとR8に電流が流れることによってR8の両端に電位差が発生する。

シミュレーションを実行するとバッテリーの電圧が11.5Vを切った時にQ2がオンしてコレクタ電流が流れる事を確認出来る。

バッテリー低下時にオンする回路

但し、上のグラフをよく見るとバッテリー電圧が11.5Vを超えてもQ2が完全にオフせずにわずかに電流が流れてしまっている。一応この回路でも動いてくれそうではあるが、正直あまり気に入ってはいない(もっと良い回路が無いものか?)。

スイッチ制御信号の確認

S1とS2の制御信号もシミュレーションで確認しておこう。

下のグラフの赤線にはG2とVaux-との間の電位差がプロットされており、この電位差がしきい電圧を超えるとS2がオンする。バッテリー電圧が11.5Vを超えていてもQ2のコレクタ電流が僅かに流れるため1V未満の小さな電位差が出てしまっているが、ひとまず気にしないことにする。

BatterySwitcherのゲート電圧

グラフを少し拡大してみると制御信号の電圧変化は比較的なだらかであり、スイッチデバイスのしきい電圧次第で2つの電源が同時にオンしてしまったり、逆に2つの電源が両方オフして電源の空白期間が発生してしまう。これを避けるためには、このグラフの赤線と青線の交点の電圧(5.43V)にスイッチデバイスSwのしきい電圧を設定すればOK。この事に基づいて、上の回路図ではSwのパラメータVt=5.43を設定している。

BatterySwitcherのゲート電圧

負荷抵抗RLに流れる電流を確認

バッテリーV1の電圧11.5Vを境に電流の波形が変わっており、電源は正しく切り替わっていそうだ。

BatterySwitcherのゲート電圧

電源からの供給電流を確認

バッテリーV1の電圧が11.5Vを超えると電流がV1から供給され11.5Vを下回るとV2から供給されており、期待通りの動作になっている。

BatterySwitcherの電流

スイッチをMOSFETに置き換えた電源切り替え回路

原理回路のスイッチデバイスを単純にMOSFETに置き換えた回路は以下。一見良さそうな回路なのだが…

ダメなBatterySwitcher

シミュレーションを実行し電源からの電流を確認すると、有り得ないような莫大な電流が流れている。原因は、ゲート電位に関係なくパワーMOSFETのボディダイオードを介して電源から電源に電流が流れてしまうためだ。

ダメなBatterySwitcherのシミュレーション結果

完成した電源切り替え回路

電源間で電流が流れるのを防止するためには逆流防止用のダイオード使うのが簡単。ただダイオードを使うと電圧降下分のロスが発生するので本当はMOSFETだけで回路を組みたいところだが、回路がかなり複雑になりそうなので今回はよりシンプルな構成で済ませることにした。

完成したBatterySwitcher

シミュレーションを実行してRLの電流を確認すると原理回路とほぼ同じ結果が得られているものの、ダイオードの電圧降下のせいで電流値が少し低めとなっている。

完成したBatterySwitcherの負荷電流

電源電流も確認。電源間で電流が流れてしまうことも無く、期待通りの動作をしている。

完成したBatterySwitcherの電源電流

ブレッドボードに回路を組んで動かしてみる

ブレッドボードに組んだ回路の写真。回路図では省略していたがブレッドボードにはパワーMOSFETがオンすると点灯するLEDが取り付けてあり、どの電源から給電されているかをLEDの点灯で知ることが出来る。

ブレッドボードに組んだBatterySwitcher

バッテリーの代わりに安定化電源を取り付けて電圧を調節し、外部電源には12VのACアダプタを取り付け、負荷RLとして100Ωの抵抗を取り付けて回路の動作を確認する。しきい電圧は半固定抵抗で10.7V付近に設定してあり、下の写真のように電圧を10.8Vに設定すると安定化電源から給電されて0.1Aが流れていることが確認出来る。見えにくいが、緑色のLEDが点灯しており、負荷抵抗RLの両端に取り付けたマルチメータの電圧は安定化電源の電圧より少し下の電圧(10.29V)になっている。

バッテリー給電モードのBatterySwitcher

安定化電源の電圧を10.6Vに下げるとACアダプタからの給電に切り替わって赤色のLEDが点灯。マルチメータの電圧値は少し上がってACアダプタ電圧の12Vより少し下の電圧(11.65V)になっている。

外部電源給電モードのBatterySwitcher

まとめ

TL431を使ったバッテリープロテクタの回路をベースに少し回路を追加して、電源切り替え回路を作った。1つの負荷に対して2つ以上の電源を切り替える回路を設計する場合は、電源間で電流が流れてしまわないよう対策が必要という点が学びだった。

この回路を使うとバッテリーが消耗した時に自動でACアダプタ給電に切り替わってくれるので、負荷への電源供給を止めずに消耗したバッテリーを充電済みバッテリーに交換する作業が出来そう。リチウムイオン電池3直列の組電池と組合せると、実用的な電源回路として使えそうだ。

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