少し前の記事で、パワーMOSFETを使って電源制御行う場合、電源への電流の逆流に注意が必要な事に触れた。
パワーMOSFETだけで組もうとすると回路が複雑になると思い込んでいたが、2つのMOSFETのボディダイオードを対向させて直列接続させるBack-to-Back接続を使えば割と簡単と知った。今回はBack-to-Back接続のMOSFETを使って電源制御する方法を記事にまとめる。
PchパワーMOSFETのBack-to-Back接続による電源制御回路
下が考えてみた回路をLTspiceで組んだ物。P-chパワーMOSFET M1とM2がソースコモンでBack-to-Back接続されており、その2つのゲートはN-ch小信号MOSFET M3による共通の駆動回路によって制御される。
この回路で電流制御出来るかまずは確認
シミュレーションを実行し、制御信号の3.3Vパルス電圧V(ctrl)とRLに流れる制御対象の電流I(Rl)をプロットしてみる。3.3Vパルスで10V電源をバッチリ制御出来ている。
ゲート駆動回路の動作原理
ソースコモンBack-to-Back接続は一見するとパワーMOSFETのソースが電源から浮いた状態で電位が不定になりそうに見えるのだが、実はボディダイオードがカギとなり電位が確定する。以下、M1,M2のゲート駆動回路の動作について詳しく見てみよう。
オンの時
ゲートドライバのM3がオンした瞬間は、M1はオフだがM1のボディダイオード(LTspiceの回路記号では省略されているので赤で書き込んだ)を介して電源V1からR1に向かって電流が流れる。また、M1,M2のゲート容量はM3のドレイン電流で即座にチャージされM1,M2はオンし、M1,M2のゲート-ソース間は電源V1の電圧と同じ(10V)の電位差となる。
オフの時
M3がオフすると、M1,M2のゲート電荷がR1を介して放電され、M1,M2のゲート-ソース間は電位差が0Vとなり、M1,M2はオフする。
ゲート駆動をシミュレーションで確認する
LTspiceシミュレーションでパワーMOSFETのゲート電圧とゲート電流を観察してみよう。
On時のゲート電圧/電流
ゲート駆動回路がOnすると、M1,M2のゲート容量にはM3のドレイン電流が直接流れるため一瞬で充電される。グラフから読み取れるターンオン時間は約2us。
Off時のゲート電圧/電流
ゲート駆動回路がOffすると、M1,M2のゲート電荷はゲート-ソース間の抵抗R1にチョロチョロ電流が流れて徐々に放電されるため充電に比べて時間が掛かり、グラフから読み取れるターンオフ時間は約150us。R1の10kΩを小さくすればもっと速くなるが、On時にR1で消費される電流がその分増えてしまう。
ゲート駆動回路の改善方法
パワーMOSFETのゲート駆動回路は色々と奥が深く、当ブログでも過去に関連する内容を何回か取り上げたので紹介しておく。
ターンオン/ターンオフ時間を同等にするには?
ターンオフ時間がターンオン時間と比べて一桁遅い事は、DC-DCコンバータ用途など電源を高速スイッチングをする場合パワーMOSFETの発熱(つまりは電力の損失)に繋がるため改善したいところ。そのためにはPchパワーMOSFETの駆動回路を検討した記事で取り上げた「トーテムポール回路」をドライバ段に使うと良い。
但し、単純な電源スイッチならOn/Offの頻度も少ないのでパワーMOSFETの発熱が問題になる可能性も低いし、そもそも気にしなくて良い事だとも思う。
ゲート抵抗の考え方
ゲートに直列に入れるゲート抵抗もパワーMOSFETのスイッチング時間を決める重要な要素で、最適な抵抗値についても色々な考え方があるようだが、0Ωにすることだけは止めた方が良いと思う。この点については以下の別記事にまとめた。
Nch MOSFETのBack-to-Back接続
一般にPchよりもNchのパワーMOSFETの方が高性能で、電源制御に使いたいのはどちらかと言えばNchの方。
というわけで、NchパワーMOSFETのBack-to-Back接続で作った電源制御回路は以下。上述のPchパワーMOSFETによる回路でM1〜M3のPchとNchの関係を反対にし、M4によるレベルシフタ回路を追加した形となっている。
これ以外にもNchパワーMOSETのBack-to-Back接続による電源制御回路で思いついた物があり、せっかくなので以下に掲載しておく。(LTspiceシミュレーションは上記PchパワーMOSFET回路の結果と何れも似たような感じなので掲載は省略)
ゲート駆動をバイポーラトランジスタで行う回路
小信号用のPch MOSFETは手持ちの在庫が少ないので、代わりにPNPトランジスタに変更してみた回路は以下。バイポーラトランジスタは電流駆動のデバイスなので、M4のドレイン電流でQ1のベース電流を供給する回路とした。
レベルシフタをそのままゲートドライバに使う回路
Pch MOSFETやPNPトランジスタを使わずに、Nch MOSFETだけで組んでみた回路。トランジスタ以外に抵抗も幾つか省略出来るため回路がだいぶシンプルになり、最初のPchパワーMOSFETを使った回路と部品点数は同じに。
但し、この回路では下のシミュレーションのようにCTRL信号と電流On/Offの論理が反転してしまうのと、スイッチがOffの時にR4に電流が流れる「待機電流」が発生することに留意が必要。
まとめ
パワーMOSFETのBack-to-Back接続を用いた電源制御回路をLTspice上で組み、ゲート駆動回路をシミュレーションで詳しく調べた。パワーMOSFETを1本追加するだけで電源への電流の逆流を防止出来るため、今後電源制御の場面で活用する機会が増えそうだ。以前の記事で取り上げた複数電源の制御回路では電源間で電流を逆流させない配慮が必要があり、Back-to-Back接続は有力な対策法だと思う。過去記事のアップデートもしたい。
コメント