LTSpiceを活用してトランジスタ増幅回路の設計方法を学ぶ

SDRがマイブームとなり、ディスクリートで高周波アンプを組みたくなって、今更ながらトランジスタ回路を勉強し設計方法を学んだ。高周波アンプといっても、中波放送の周波数なのでせいぜい1MHz前後、ブレッドボード上に回路を組む想定だ。

教科書には「交流のゲインを上げるために、エミッタ接地増幅回路のエミッタ抵抗に並列にコンデンサを取り付けよ」と書かれている事が多いのだが、ブレッドボード上に実際に回路を組んでみると発振しやすく、対策としてもう少し細かくゲイン調整したくなる場面がある。

今回はLTSpiceを使った回路シミュレーションを活用し、高周波アンプのゲインをコントロールする方法を自分なりに体得したので、その内容を記事にしたいと思う。

基本の「電流帰還バイアス回路」

バイポーラトランジスタによるアンプ回路の基本はエミッタ接地回路であり、エミッタ接地回路の中でもトランジスタの品種や特性に関わらず回路定数を決められる電流帰還バイアス回路は定番と言っても良いだろう。例として、以下のような回路をLTSpice上で組んでみる。

この回路の回路定数を決めた手順は以下の通り。

  1. エミッタ電位V_Eを決める。この例では約0.5V程度を狙う。
  2. エミッタ電流I_Eを決めると、エミッタ抵抗がR3=\frac{V_E}{I_E}の関係により決まる。この例ではI_E=0.5\mathrm{mA}程度を狙いR3=1\mathrm{k\Omega}とした。
  3. ベース電位V_Bは概ねV_E+0.6\mathrm{V}なので、電源の抵抗分圧でこの電位になるようにベース抵抗2つを決める。V_Bの目標値は0.5V+0.6V=1.1Vなので、R1=\mathrm{22k\Omega}, R2=100\mathrm{k\Omega}とした。
  4. コレクタ抵抗R_4を決める。コレクタ電流I_CI_C \approx I_Eの関係があり、コレクタ電位はV_C = V_{CC} - R_C I_Cにより決まるが、V_E < V_Cの関係が満たされる必要があるため、R_4はどんな値でも良いわけではない。上の例ではR4 = 6.8\mathrm{k\Omega}として、コレクタ電位が大体電源の中点電位辺りとなるようにした。

電流帰還バイアス回路のゲインはエミッタ抵抗とコレクタ抵抗の比で決まる。上の例では\frac{R4}{R3} = 6.8倍の増幅回路ということになる。

OP解析で動作点を確認する

机上で決めた回路定数でトランジスタの各端子の電位や電流が狙い通りになっているのかどうか、LTSpiceのOP解析で確認する。上の回路図でOP解析をした結果は以下のようになり、大体狙い通りになっていることがわかる。

       --- Operating Point ---

V(v+):     6   voltage
V(b):     1.05702     voltage
V(input):     0   voltage
V(output):     3.12231e-08     voltage
V(c):     3.12231     voltage
V(e):     0.424574    voltage
Ic(Q1):     0.00042319  device_current
Ib(Q1):     1.38352e-06     device_current
Ie(Q1):     -0.000424574    device_current
:
(略)

電流帰還バイアス回路の良い所は、トランジスタの品種によらず大体同じ動作点に行く事だ。トランジスタを2N2222に取り替えて再度OP解析を実行しても、以下のように2N3904と殆ど同じ結果になる。

       --- Operating Point ---

V(v+):     6   voltage
V(b):     1.04557     voltage
V(input):     0   voltage
V(output):     3.19978e-08     voltage
V(c):     3.19978     voltage
V(e):     0.413815    voltage
Ic(Q1):     0.000411797     device_current
Ib(Q1):     2.01827e-06     device_current
Ie(Q1):     -0.000413815    device_current
:
(略)

2N3904や2N2222そして日本で定番の2SC1815等いわゆる「小信号トランジスタ」と呼ばれる物であれば、大抵は同じ動作点に行ってくれるので電流帰還バイアス回路は使いやすい回路だ。

AC解析で周波数特性を確認する

AC解析で周波数特性も確認しておこう。周波数によらず概ね理論通り6.8倍(約16dB)になっている。高い周波数でゲインが落ちているのはミラー効果によるもの。スケーリングされているためガクンとゲインが落ちているように見えるが、1dB未満のゲイン低下なので誤差レベルだ。

エミッタ-GND間のインピーダンスを下げて交流ゲインを上げる

上記の基本のアンプではゲインが6.8倍しかないので少々物足りないが、エミッタ抵抗R4に並列にコンデンサC3を入れることで交流ゲインを大幅に上げる事が出来る。

このアンプでAC解析を行うと、ゲインは1MHzで約40dB(100倍)と大幅にゲインが上がっている。

エミッタ-GND間のインピーダンスを確認する

AC解析で得られたエミッタ電位をエミッタ電流で割り算することにより、エミッタ-GND間のインピーダンスをプロット出来る。C3を追加したアンプ回路での結果は以下の通り。低い周波数では並列に入れたコンデンサによる影響が少ないためR3の値そのままだが、周波数の上昇に伴いインピーダンスが大幅に低下している。

周波数のレンジを変えてプロットしてみる。

あまり高くない周波数であれば、コレクタ抵抗R4の抵抗値をエミッタ-GND間のインピーダンスで割るとゲインが求まる。例えば100kHzのインピーダンスをグラフから拾うと約155\mathrm{\Omega}なので\frac{6.8\mathrm{k\Omega}}{155\mathrm{\Omega}} =約42倍(約32dB)とゲインのグラフの値と大体一致する。しかし、周波数が上がるのにつれインピーダンス比とゲインの一致が悪くなっていく。恐らくこの不一致はミラー効果の影響だろう。

コンデンサに抵抗を直列追加してインピーダンスの下限を設ける

エミッタ抵抗に単純にコンデンサを並列接続した回路は、ゲインが高すぎて発振しやすく使いづらい。そこで、以下の回路のようにコンデンサと直列に抵抗R5を挟んでゲインを少し落とすと安定する場合が多い。

このアンプのエミッタ-GND間インピーダンスをプロットする。周波数が上がるにつれてR3とR5の並列合成抵抗値である約180\mathrm{\Omega}に近づいていくのがわかる。

この回路のゲイン特性は以下の通り。エミッタ-GND間インピーダンスの下限180\mathrm{\Omega}とコレクタ抵抗R4=6.8\mathrm{k\Omega}の比31.5dBより少し低い約29dBがゲインの上限となっている。

電流帰還バイアス回路のゲイン決定要素

これまでエミッタ-GND間のインピーダンスを下げる方針でいくつか回路のバリエーションを見てきたが、電流帰還バイアス回路のゲインはエミッタ側とコレクタ側のインピーダンス比で概ね決まると覚えておけば良いだろう(但し、ミラー効果が顕著になるケースなど当てはまらない場合もある)。

\mathrm{アンプのゲイン} \approx \mathrm{\frac{コレクタ-VCC間のインピーダンス}{エミッタ-GND間のインピーダンス}}

つまりエミッタ側のインピーダンスを下げるだけではなく、コレクタ側のインピーダンスを上げてもゲインを上げることが出来るということだ。

コレクタ-VCC間のインピーダンスを上げて交流ゲインを上げる

あまり実用的な回路ではないが、基本の電流帰還バイアス回路のコレクタ抵抗R4にLC共振回路を直列接続した以下のような回路を調べてみる。

LC共振回路の共振周波数は以下の式に基づいて決まる。


f = \frac{1}{2 \pi \sqrt{L C}}

回路定数をあてはめると、L1とC4で構成されるのは500kHzのLC共振回路ということが分かる。LC共振回路は共振周波数でインピーダンスが最大になる性質がある。このアンプのゲインを調べると500kHzでゲインが極大値をとり、他の周波数では基本の電流帰還バイアス回路と同じ位のゲインとなっている。

この回路のコレクタ-VCC間のインピーダンスは以下のように500kHzで11.2\mathrm{k\Omega}になっており、エミッタ-GNDとのインピーダンス比11.2倍(20.9dB)はアンプのゲインとほぼ一致する。周波数が500kHzから離れるとエミッタ-GND間インピーダンスはR3と同じ6.8\mathrm{k\Omega}に近づいていき、アンプのゲインも基本の電流帰還バイアスのゲイン6.8倍に近づいていく。

実用的な同調アンプ

コレクタと電源の間にLC共振回路だけを接続すると共振周波数にゲインのピークが現れる一方で、周波数が共振周波数から離れるに従ってゲイン0へと減衰する同調アンプとなる。共振周波数でのゲインを上げるためには上で述べた通りエミッタ-GND間のインピーダンスを下げれば良いのだが、ゲインの上げ過ぎは発振の元なので、以下のような回路にすれば適度なゲインを持つ実用的な同調アンプとなる。

この回路のAC解析で得られるゲイン特性は以下。

コレクタ-VCC間のインピーダンス特性。500kHzでは5.7k\mathrm{\Omega}

エミッタ-GND間のインピーダンス特性。500kHzでは182\mathrm{\Omega}と読み取れるので、インピーダンス比は\frac{1.7\mathrm{k\Omega}}{182\mathrm{\Omega}}=31倍(約29dB)で概ねゲイン特性と一致する。

まとめ

電流帰還バイアス回路のゲインを決める要素をLTSpiceのシミュレーションで確認しつつ、回路のゲインをコントロールする手法を紹介した。教科書ではざっくりと「エミッタ抵抗にコンデンサを並列に繋いで交流インピーダンスを下げてアンプのゲインを上げましょう」としか書いていなかった事も、LTSpiceでエミッタとコレクタのインピーダンス比を実際に確認することで、より深く理解出来るようになったと思う。

ディスクリートのトランジスタアンプには周波数特性を改善するために適切なコレクタ電流を流したり、ノイズ特性を改善するために入出力のインピーダンスマッチングを取ったりと、色々と奥深い要素があるようだ。今回紹介したアンプのゲインのコントロール法は、アナログ回路のプロから見るとダメなやり方なのかもしれない(もし何か間違ったことを書いていたらコメント欄で指摘をして頂けると嬉しいです)。

何はともあれ、とりあえずはブレッドボード上に発振しないアンプ回路を組む事が出来るようになったので、この手法をSDRの自作などの場面で活用して行きたい。

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